円安で潜在的インバウンド需要が急増!日本旅行のために両替へ

対米ドルで一時約20年ぶりの円安水準は、アジアの国々・地域でも大きな話題となっている。特に日本人気が高い香港や台湾では移動制限の解除後、お得に日本旅行や日本での消費を楽しめるとみて、円を買う動きが出始めた。割安に取得できる日本の不動産など資産運用への関心も高まっている。人々は円相場をにらみながら、心を日本に飛ばしている。

旅行回復見据え、少額ずつ両替

「とりあえず5万円相当両替した。3000香港ドルちょっとで済んだね。うん、後で日本に行くつもりだよ」――。香港島の両替店で日本円を買っていた男性2人組。1人は話している間にスマートフォンでレートの電子表示をパチリと撮った。いくつかの店を見比べて少額ずつ両替している。記者が「円安はまだ進むと思いますか」と聞くと、「そろそろ底打ちじゃないかな」。「下がったらまた両替すればいいよ」とうなずきあっていた。

訪日観光への期待は台湾も同じだ。台湾メディアの聯合報(電子版)は18日、「ウィズコロナ時代、円安は悪いことではない」との識者の意見を紹介した。円安が日本の観光業の隆盛をもたらすとしたうえで、「周囲にコロナ後、どこに旅行したいか聞いたら、日本という答えは多いはず」と日本人気の根強さを強調した。

円はアジア通貨に対しても下落基調で、対台湾ドルではQUICKなどでデータを取得できる1998年6月以降で最安値圏。対香港ドルでもデータがある2003年3月以降で最安値圏にある。

香港ヤフーが3月30日~4月6日に2万人超を対象に実施した意識調査によると、旅行に備えた円への両替は「様子を見る」が47%超と最多だった。ただ、「円安進行なら両替すべし」も35%と、「決めていない」の18%を大きく上回り、日本旅行の資金確保を念頭に、両替に関心を持つ人も多い様子がうかがえる。日本の観光庁のデータでは、香港からの訪日客は新型コロナウイルス禍前の19年に前年比4%増の229万人。台湾からも3%増の489万人で、ともに過去最高水準だった。

より大口の資金が動き始めた気配もある。香港で資産運用業務に携わる日本人女性は、「香港で運用していた年金や保険を解約したいとの相談が増えている」と明かした。日本の物件を専門に扱う香港の不動産仲介店の店頭には、「日元新低位(円が最安値)」との文字が踊る。「お客さんは多いですよ。オンラインでの物件見学を準備して、訪日できないハンディを補っています」。店員は自信に満ちた表情を浮かべた。

コロナにインフレ…円投資の余裕は縮小か

もっとも、円安だからといって即座に旅行準備や投資に飛びつくわけでもない。日本食品の輸入販売を手がけ、円相場の動きに連動しやすい香港のCEC国際株は22日に一時、前日比3%安の0.60香港ドルと年初来安値圏に下げた。「香港域内の景気が悪く消費関連は業績悪化が予想されるため、輸入コストの低減期待だけを手がかりに買いを入れることはできない」(金利豊証券の研究部執行董事の黄徳几氏)。コロナ禍で懐が痛んだうえに、ウクライナ問題によるインフレ懸念もくすぶり、投資や消費につぎ込める資金的余裕はコロナ禍前に比べ縮小傾向だ。

「潜在」を「本格的」インバウンドに変えるには、結局のところ世界中で移動制限が緩和される日を待つしかないという現実もある。香港市場では、日本向けパック旅行の東瀛遊控股(EGLホールディングス)株はコロナ禍前の19年末に比べ1割弱安い。香港は入境者になお最低1週間のホテル隔離を義務付けており、「日本の入国が緩和されたとしても、香港に帰った後のことを考えると現実的に旅行できない」(金利豊証券の黄氏)

日本に留学経験がある20代の香港人女性は、日本で持つ銀行口座に送金する計画があるかとの質問に「いつ日本に行けるか分からないです」と肩をすくめた。

記事元:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB00016_S2A420C2000000/?unlock=1


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